針穴日記

見たり聞いたり思ったりしたことなどをちらほらと。

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最近読んだ本

トロイア戦争を題材にした小説を何冊か読んだので、まとめ書き。
人物名などの長音表記は、それぞれの著作に合わせてあります。

『トロイア戦争物語』
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バーナード・エヴスリン著 喜多元子訳 教養文庫
若い人向けに読みやすくまとめてあります。パリスの審判からトロイア陥落までをカバーしてあるので、ラスト近くはかなりの駆け足でした。
神々の戦争への介入は、そのまま神々の行為として描かれています。
こういう叙事詩に神話的要素が入るのは苦手だという人がいますが、私はまったく逆で、神話的要素を排除したり、ことさらに現実のものにすり替えるようなやりかたのほうが味気なく感じます。その点でこの本はけっこう気に入ってます。が、ちょっと脚色しすぎに感じる部分もいくつかありました。
教養文庫なので絶版です。



『新トロイア物語』
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阿刀田高著 講談社文庫
トロイア戦争からローマの建国まで、つまり「イリアス」から「アエネイス」までをひとつにまとめた長篇歴史小説。主人公はトロイア側の武将アイネイアス。リアルな描写なので、神々の出番はありません。アイネイアスは女神アプロディテの子として育った英雄ですが、この小説ではそのあたりを合理的に説明してあって、おもしろく読めました。「トロイの木馬」も作者ならではの解釈がなされています。当時の風俗風習などは想像で補わなければならない部分がほとんどなのだろうけれど、じつに生き生きと描写してあり、楽しめました。
読後はしみじみと心地よい余韻が残ります。
これも絶版です。



『ファイアーブランド』
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マリオン・ジマー・ブラッドリー著 岩原明子訳 ハヤカワ文庫
こちらは女性の側から、細かい部分まで冷静な目線で書かれたイリアスです。主人公はトロイアの王女カッサンドラー。
神々の介入部分はすべて現実の出来事に置き換えてあり、たとえばアキレウスに武器が通じないというのは、彼だけが銅ではなく鉄の鎧を着ているからという設定だったりします。メネラーオスとパリスの決闘で、アプロディーテーが介入してパリスを助ける部分などは、かなりこじつけてあったりしたけれど、おおむね納得できました。

しかしパリスをはじめ、登場するほとんどの男が阿呆のように描かれていて、へクトールすら、妬みや功名心のある嫌なやつになっているんですが、それがかえって男たちを類型的に見せてしまっていて、感情移入できませんでした。
それにしてもカッサンドラーがイライラしっぱなしなのは、彼女にばかり女性を代表させようとしたせいなのか。作者の苛立ちを代弁させすぎの感も。

最後のエピソードはとってつけたようだったし、所々でわざと善悪ひっくりかえすようなことをしているのも、あまり成功しているように思えません。

ただ、へクトールの亡骸返還のくだりでの、カッサンドラーの考え方は同意できます。
アキレウスが遺体を引きずり回すことを嘆く王家の中で、カッサンドラーだけは、何をされようともこれ以上へクトールが損なわれることはないことを知っている。なぜなら巫女であるカッサンドラーは、へクトールの魂がすでにからだを離れて安らいでいるのを知っているから。「葬儀を重んじるのは、へクトールでも神々でもなくて、わたしたちなんです」と、母であるヘカベーを慰めようとするけれど、カッサンドラーの言葉が周囲に受け入れらることはない。まあこれは現代でも受け入れ難い考えでしょうけど、私は共感できました。

これまた絶版。



『ペネロピアド』
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マーガレット・アトウッド著 鴻巣友季子訳 角川書店刊
女性の目から見た『オデュッセイア』。
オデュッセウスの妻ペネロペは、夫の帰りを20年も待ち続けた貞淑な女性として名高いけれど、果たしてそれは真実なのか。
この本のペネロペは現代の我々にむかって、黄泉の国から思い出を語っていきます。しかしそれとてどこまでが本心なのか。ペネロペの貞淑さ、機転の利いた策略の本意がはたして伝説どおりなのかは、誰にもわからない。オデュッセウスの様々な冒険譚も、神話的なベールを取り払えば、現実的な見方ができるのと同様に。

塩野七生にもペネロペの視点で書いた『貞女の言い分』という短い話がありますが、そこでもオデュッセウスは多情な寄り道男ということになっています。

本家『オデュッセイア』を読んでいて気になるのは、オデュッセウスの帰還後に処刑される召使いの女性たち。
これは現代とはモラルや考え方が違うんだと思って読んでも、どうもひっかかります。
サトクリフの再話『オデュッセウスの冒険』でも、召使いたちの首吊り処刑シーンはスッパリと削られています。

『ペネロピアド』では、そのあたりを追求しています。
  1. 2007/04/29(日) 12:12:29|
  2. 読書
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