針穴日記

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終着駅 トルストイの死の謎

終着駅 トルストイの死の謎終着駅 トルストイの死の謎
(1996/12)
ジェイ パリーニ

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82歳という高齢で妻と家庭と財産を捨てて家を出、寒村の駅で病死したトルストイ。この本はその晩年のトルストイと彼をめぐる人々、妻ソフィヤ、高弟チェルトコフ、娘サーシャ、秘書ブルガーコフらの手記という形で構成されていて、どこまでが著者の創作かは判然としない作りになっている。
おもしろい試みだとは思うが、純粋な「伝記」ではなく、テーマは別なところにあるので、ここに書かれているのぞき趣味的な事柄も鵜呑みにするのは危険。
とにかく一家のセックスに関する描写が多すぎて、正直なところ辟易した。
なにか悪意すら感じるし、わざわざ歪めて伝えているように思えるのだが。
トルストイ自身の日記は日本でも翻訳されているけれど、夫人や秘書の日記はロシア語でなければ読むことはかなわず、ふつうの読者には真実がわからないのも問題だ。

実際のところ、トルストイのいわゆる回心後の運動や思想(徹底した非暴力と自己犠牲)を知っていないと、この本の内容には戸惑うかもしれない。
当時のトルストイの人気はロシア国内にとどまらず、世界的にたいへんなもので、大衆が小説家に向ける尊敬も今のそれとは違っていたようだ。トルストイの場合は『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』の作者としてだけではなく、隣人を自分以上に愛せよと説くその思想が愛されていて、日本にもトルストイ主義に惹かれた人たちが大勢いて、彼の教えを実践しようとしていたそうだ。

自著を民衆に安価な形で読んでほしいと考え、著作権を放棄し、自身のもつ財産を貧しい人たちに分け与えたいと願うトルストイに最後まで反対していたのはソフィヤ夫人だ。
そのソフィヤ・アンドレーエヴナは、俗に「世界三大悪妻」の一人に数えられているけれど、異常なほどの嫉妬深さを除けば、あくまでも一家の将来を案じる、現実的な物の見方をする普通の人だったのだろう。
この本には書かれていないが、皮肉なことにトルストイの死後、その著作は革命後に国営の出版社の手に渡ってしまい、貧しい民衆には手が届かない価格となってしまったし、あれほど著作権にこだわった夫人の手元には何も残らなかったそうだ。

トルストイはひじょうに筆まめな人で、たとえば河出書房のトルストイ全集には『妻への手紙』と題する巻があり、その解説によると、トルストイが夫人に宛てた手紙だけで800通以上もある。
そこで言えるのは、どんな聖人であっても、もしトルストイのように本人の日記や書簡、周囲の人びと(新聞記者や作家を含む)の細かな日常の手記が膨大に残っていれば、嫌でも俗な部分が見えてくるだろうということだ。
この本は、その俗な部分を必要以上に大きく書いているように思える。あるいはエピソードを「創作」という形で「捏造」している可能性もあるのではないか。

ところで、この本を原作にして映画化された『ラスト・ステーション』にソフィヤ夫人役で出演したヘレン・ミレンは、何かのインタビューで「トルストイは女性を見下している」とか言っていたが、おそらくこの原作小説を読んだだけの感想なのだろう。
  1. 2010/01/29(金) 01:16:50|
  2. 読書
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